茗溪学園 父母会

美術科:阿部潤先生インタビュー

現在43回生(中学2年生)のクラス担任を受け持つ阿部潤先生に茗溪学園の美術教師になられた経緯や茗溪の美術教育についてお話を伺いました。

茗溪学園の美術教師になられた経緯

私は茗溪学園の28回生で、美術部に5年間所属していました。その後、美術系に進学しようと思い筑波大学の芸術専門学群に入学をして、大学生になってから陶芸を始めました。そして専門を陶芸にして大学院に進学し、大学院の2年目に茗溪学園の非常勤講師になり、非常勤3年を務めた後、専任になって3年目になります。

高校生の頃から陶芸の方に進もうと決めていたという訳ではなかったのですね?

そうですね。美術は好きだったのですが、茗溪の美術でいろいろとやってきた中でも自分が本当に何をやりたいかということまでは決めきれない部分がありました。筑波大学の芸術専門学群は入学していろいろやってみてから決められる(私立の美大では専門を決めて入らなければならない)ということもあったので、ビジュアルデザインやガラス、木工などいろいろなことをやってみて、私はその中でも陶芸が好きで陶芸を選びました。

ただ、いろいろとできる分学ぶのにも時間がかかってしまうため、私は大学4年間では足りないと思って大学院まで進みました。

 

陶芸をやるきっかけとなったのは?

陶芸にはずっと興味があって、でもなかなかチャンスがなかったのですが、やってみると自分の表現したいものを表現しやすかったということがあります。また、いろいろなことをやっていると自分は今まで好きだと思っていたけれど他の子の方が得意だなというようなことも見えてきました。そんな中で陶芸は、他の子が苦手にしていることが私にはすんなりとできたり、先生が評価してくれたりする部分もあって、なんとなく向いているということがやっていく中で見えてきたというのがあります。

ずっと陶芸というのは器だと思っていたのです。いわゆるお皿とか壺のイメージが大学に入るまであって、でもそうではないということが大学の先生の作品やいろいろな人の作品を観て思って、焼き物の粘土が柔らかい状態から焼くことによって表情が変わっていくその過程の中で、それでしか表現できないものがあるのだということに気づいて、知らなかった世界が見えてきたのが新鮮でした。

 

影響を受けた人物や作品はありますか?

誰か1人とか1つだけとなると、蓄積されてたくさんあるので出てこないのですが、もちろん作家から影響を受けることもありますし、それ以外にも素材自体から影響を受けている部分や、文章から影響を受けることもあります。いろいろな人の作品を観ることから受ける刺激もありますし、素材が目の前で変わっていくことから受ける刺激もあり、また周りで制作をしている同級生から受ける刺激もあってやっていましたね。

私がやっている工芸(陶芸、ガラス、木工など)というのは実用的というイメージが強く、ある意味技術的なことが重視されてしまう部分があると思いますが、そうではなくて造形的な要素としての工芸的な表現みたいなもので、素材が持っている特性などから抽出して自分なりの形にしていく部分の面白さというか、 少しずつ配合や割合を変えて焼いてみて、これだとこの形やこの色になるというようなことが分かって自分の表現に展開していく面白さがあります。でも、思い通りにいかないことの方がたくさんあってその時はショックでもありますけど、稀に想像以上のものになるというのも工芸にはあり、思いがけない面白さやワクワク感というのを感じます。

何度か失敗していると、こうすればこうなるというのが段々と分かってきて、それが自分の表現に落とし込めるようになってきた時に、作ってよかったなと思える作品になる感じがあります。

 

好きなモチーフなどはありますか?

茗溪学園美術展で出していたような、植物っぽいイメージで作ることは多いですね。

 

阿部先生の作品 タイトル『ボタニカル』(写真左)

 

茗溪の美術教育の特徴について

美大に進む子も他の学校に比べたら多いですが、そうでない子に向けても役立つスキルになってほしいと強く思っています。特に中学の間は基礎的なことから段階的にやって、確実に力をつけていってもらいたいですね。

内容としては、 「観察して→気づいて→表現する」という3つのステップになりますが、これは美術では作品に 、何をするにも必要なことだと思っています。

まず、物事に向き合ってしっかりとそれに対峙することが広い意味での「観察」だと思います。

また、美術の中の「気づき」というのは、ただ見ているだけではなく頭を使って、例えば物の構造や表面の様子、光の当たり具合など、何気なく見過ごしてしまうようなところにも気がつき考えが及ぶことです。それによって、社会のいろいろなことに対して様々な見方があるということや、いろいろな視点で物事を考えるなど、頭を使って物を見るというのはこういうことだと気づいてほしいです。

そして「表現する」というのは、自分の気づいたことや見えている世界をどのように工夫したら他の人に伝わるのかを考え、それを形にすることです。社会として考えたときにも、今問題になっていることに気づき、それを解決していくために必要な力だと思っています。

重要視している訳ではありませんが、美術ではテクニック的なところも教えることによって、自分にはできないと思っていたけれどこうすればいいんだと解決方法のアイディアとして提供することができるものだと思っているので、それによって生徒の満足度も上がっていくと感じます。

 

入学してから1年間のカリキュラムについて ※下記は、ある年の中学1年生のカリキュラムの流れです

最初の課題は、鉛筆で自分の顔を描いて自分の好きなものなどを書く「自己紹介カード」というものです。まずは新しく入学してお互いがどういう人なのかを知ってほしいと思っています。

小学校の時にも顔というのは描いていたと思いますが、自由に描くのではなく方法論を実践することで顔が描けていくというのを実感してもらいます。

 

2つ目が、鉛筆で靴を描くという課題です。最初に自分がその日に履いてきた靴を思い出しながら描いてもらい、その後で自分の靴を下駄箱に取りに行って、今度は実物を見ながら描いてもらいます。一つの画用紙を上下に分けて描いてもらうことで、とても上手になった気分になります。思い出して描くのと見て描くのではこんなに違うのだと分かり、そこで観察することのモチベーションが上がっていきます。

 

3つ目の課題は、絵の具(アクリルガッシュ)になります。「ホタテ貝」を色の三原色+白のみで描きます。混色する作業というのは難しいのですが、それをすることによって安易な色使いにならないですし、自分で頭を使って本当にこれで良いのか、合っているのかと問答しながら色を混ぜていくことになりますので、安易に色を使ってしまうよりもずっと良い作品になっていきます。そして、その他にも筆遣いなど基本的なことを指導していきます。

 

4つ目の課題もアクリルガッシュを使い、今度は静物画を描いていきます。あみだくじによって何のモチーフを描くかが決まります。今までに学んだ比率を測りながら描くとか、観察する、混色するなど、中学1年で学んだことの集大成として作品を制作しています。

布は全体に色をおいて、暗いところには暗い色、明るいところには明るい色で、水が付いた筆でぼかすと柔らかくなるとか、ガラスはまず後ろのものを描いてから白っぽく描くとか、葡萄の一粒ずつの立体感をつけていくとか、この通りにやれば上手く描けるという方法を実際に見せながら、段階を踏んだやり方の見本を全て前に貼って指導していきます。

 

5つ目の課題では立体の作品に入っていきます。 仏像を制作しました。東大寺の阿形、吽形、奈良の大仏の3つの中から好きなものを選んで、人間の針金型の芯材を使ってポーズをとらせ、そこに粘土をつけていきます。写真など資料をたくさん用意して、筋肉の付き方や比率などを確認しながら手の指一本一本まで細かく作っていきます。乾燥してしまうため、毎回濡らしたタオルを巻いてビニール袋に入れて保管し、最後は金属っぽく仕上がる(化学変化で錆が出るような加工もできる)塗料を使って、塗装までして終わります。

 

次は、1回限りの授業で色彩に関する講義があります。色の基礎的なことが載っている色彩のテキストを1冊ずつ配布しており、色相環やトーン、明度、彩度の話やテキストに付属されている色のピースを使って自分で色相環を作ったりします。

 

最後の課題が油絵での自画像になります。ほとんどの子が初めてなので、道具の使い方から指導していき、顔の明暗など自分の顔をしっかり観察して描いていく、そして油絵の特性を知って油絵に慣れていくことを趣旨としています。最初から自由にやっても絶対に上手くいかないものなので、ここは濃い色で、ここは薄い色で、この色をこのくらい出す、といったように決まったことを、段階を踏んで細かく伝えていきます。

 

生徒たちはどのように変化していると感じますか?

「今まで図工は苦手だったけど、美術はやれば上手になってきて楽しいという実感を持ちました。」と言ってくれる子もいますし、保護者の方からも「うちの子は絵が苦手で上手く描けなかったのですけど、上手く描けるようになったと喜んで帰って来るようになりました。」という話を聞いたりして、とても嬉しく思います。

美術に限らず、音楽や書道なども小学生の時は苦手意識が強くてあまりやらなかった子たちが家で話している様子などを聞くと、いろいろなことに目が向くようになってきていると感じます。

また、茗溪学園美術展など発表する場があるということが、力を伸ばすことにもつながっていると感じています。

 

阿部先生が生徒だった時は、どのように感じていましたか?

他の学校では受けられない美術教育を受けられたという気持ちはすごくあって、強い刺激や影響を受けましたし、もしこの学校に入っていなかったら美術系に進むことはなかったかもしれないと思っています。また、在学中に茗溪学園美術展で卒業生の作品を観て自分の進路が見えてくるようにも感じていました。

 

茗溪学園美術展の様子

 

美術を通して生徒に伝えたいこと

最終的には自分のしたことに責任を持つことが美術の一番大事なところだと思っています。すぐにできるものではなく自分のやってきた形跡が積み上がって作品になっていくので、自分が作品に対してどのようなことをしたのかということが結果として現れ、それを受け入れて、展示された自分の作品がどう見えるのかを客観視するというところまでが美術だということに気づいてほしいと思っています。

また、いろいろなものの見方や「観察して→気づいて→表現する」ということを他の教科にも生かしていってくれることを期待しています。

 

 

インタビュー取材後記

インタビュー後の話の中で、「茗溪で美術部に所属していた卒業生の中には、博物館の学芸員や映像作家、漫画家や広告代理店など美術系のお仕事に就いている方も多いのですよ。」と仰っていたのがとても印象的でした。

また、入学前と後では自分の子どもの絵の雰囲気が大きく変わり、他の方からも同じような話をお聞きしたので、どのような授業を受けているのかずっと興味がありましたが、今回お話を伺ってとても納得ができました。そして、阿部先生の美術や生徒に対する想いを強く感じることができました。

お忙しい中、阿部先生には貴重な時間をいただき本当にありがとうございました。今後一層のご活躍をお祈りいたしております。

 

※ぜひ、10月16日(水)~20日(日)につくば美術館で開催される茗溪学園美術展に足を運んでみてください。