日本語ボランティア体験記

茗溪学園では、海外からの長期や短期留学生を数多く常に受け入れています。その中でも半年~年単位の長期滞在留学生に対して、現在おおよそ15名の在校生の父母による日本語の学習サポートを行っています。今回は、この日本語ボランティアを体験された父母の方からの寄稿をいただきました。

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高3(40K) +高1(42K) 田中 新

 

どんなことを?

茗溪学園に滞在する長期留学生は、主に寮住まいで高校1年生もしくは2年生と一緒に半年~1年間授業を受けます。今まで約1年半にわたってタイや台湾などからやってきた3人の留学生にボランティアとして日本語を教えています。土曜日に週1時限(50分)1:1です。担当の先生方が何をしたかがわかるように連絡ノートがあり、どんなことをしたのか授業後書き込んでいます。以下は私の体験です。

 

きっかけ

担当の国際教育部の先生曰く、ボランティアの役目は教科書をやるよりも、日本語だけではなく留学生のわからないことを様々多岐にわたってサポートしてほしいとのことでした。「私は田中です。」と「私が田中です。」の違い、「おいしい」→「おいしくなる」となるのになぜ「きれい」→「きれくなる」と言わないのかなどは入門書に書かれているので心配ありませんとのこと。

平日は仕事しているため何もできず、お花、お茶、着付けなど特別によく知っているわけでもない。日頃多国籍の人間と英語で仕事はしているので、文化の異なる人にニュアンスを伝えられるかも、また茗溪在学中寮生活だったのでその面でのサポートなら、ということで始めることにしました。

 

その1 タイからの女の子

初めて担当した生徒さんはタイからの留学生ですが、英語がパーフェクトでした。発音もとてもきれいで英語は完全に使いこなしています。

まずは日本語テキストでわからないことに答える、というスタイルで始めました。日本語を日本語で説明するのがなかなか難しく、ニュアンスを伝えるために英語で表現できることは英語を使い、どう言うと伝わるか考えながらなのでいつも授業があっという間でした。

よくよく聞くと学園を定年退職された英語の先生が日本語を教えてくれるそうで、先生がいるんだったら、と思ったのがきっかけだったかもしれません。次第に、名探偵コナンが大好きで日本に来たかったこと、自分がやりたい仕事やお父様のお仕事などご家族のことなど、こうやって日本語でおしゃべりするのも授業だよね、と言いながらいろいろな話をすることで時間が過ぎていくようになっていきました。

 

高校教科書、こういう日本語もあるよね

ある日、実は学校の授業で全くわからないところがある、教科書の日本語が普段使用するテキストと全く違うのでわからない、だから先生の言っていることもさっぱり・・・。物理でした。確かに理系の教科書にある日本語は少々違うかも、と思いながら一緒に始めて改めて教科書を眺めると漢字が多い!それも遠心力だの向心力だの慣性力だのとわかりにくい漢字ばかり。どういう力のことかホワイトボードに書いたり実戦で説明したり。わかってくれたときにはうれしかったです。

 

日本文化、きたか!

冬休み明け茗溪学園では初日に高校生は全員で百人一首をやります。名探偵コナンで何首か出てくるそうでそれは覚えていたようなんですが(さすが!)、100円ショップで百人一首の本を買ってきてやり始めました。字面をみても暗号にしか思えない、ということでやっぱり句の意味も解説です。例えば崇徳院の「瀬を早み・・・」は表面的には水の流れの情景ですが実際の句の真の意味、作者が描きたかった愛し合っている人とのことを説明した方が印象にも残るはず、と思いつつ説明。感想は「昔の人ってそういうことを思ってたんだね。無理矢理別れてしまうのは嫌だなー」ということで少しはわかってくれたかも。

 

はじめはとっても驚いたそうで

寮生活、集団生活自体が初めてだったとのことで最初の頃はかなりいろいろと戸惑ったようです。次第に何人も友達がいることがうれしくてとても快適だったようです。2月の寒稽古(剣道)はちょっと身構えてましたが、考えてみたら茗溪の寮に入らなければそんな経験をすることもなかったでしょう。その意味では思い出の一つになると思います。

 <寮の部屋(学園ホームページより)>

 

その2 台湾からの男の子

台湾からの男の子はすでに私がタイの女の子と授業している間、他のボランティアと進めていたこともあり、かなり日本語が上手でした。元々漢字は読めるし問題ありません。台湾に戻ってから理系に進みたいと思っているとのことで茗溪でも数学などの授業を受けています。ここでも数学について聞かれたのですが、残念なことに数列などすっかり忘れてしまっていて、解答を見ながら説明する形となり、教える側も教えられる側もしどろもどろで役立たなかったと思います(ごめんよ)。

 

実際に…

台湾の食べ物の話はかなり盛り上がりました。タピオカにしても日本に比べていろいろな種類があってしかもそれを当然のように飲み分けている辺りさすがです。桐創祭で発表をする機会があって、夜市・食べ物・景色の違いを示して食べ物はタピオカ以外にもかき氷や飲茶など、景色は朝のバイクの多さや救急車の色の違いなど日本と台湾を知らないと指摘できない点を挙げているのが特徴でとても印象的でした。

                                     

<台湾の夜市(自撮りより)>

 

その話に刺激され、ついつい我慢できず子供が研修旅行でいない合間に台湾旅行を満喫してしまいました。おかげでとっても楽しめたよ!

      

                      <台湾夜市の胡椒餅屋、タピオカ>

 

その3 タイからの女の子

こちらのタイの女の子も英語がばっちりでした。初めて会って授業を開始したときは、まだ日本に来てまもなくだったこともあって、ほとんど日本語が出てきませんでした。最初の頃は授業中の会話がすべて英語でした。また授業のサポートもするよ、と投げかけましたが、おしゃべりをしたいようで初めからずっと授業は英語でおしゃべりすることからスタート。今から思うと、周りの生徒たちとはまだあまりしゃべれないし、先生はあくまでも先生なので、ずっと英語で話しても気兼ねしないで話せる相手があまりいなかったようです。いろいろな話を聞きました。留学生みんなに共通してますが、将来に対するしっかりしたビジョンを持っていることと、何か興味あることがきっかけとなって日本に留学に来ることを決めたとみなが言っていました。

この生徒のキーワードは「ラブライブ」です。それまで全く知らなかったですがお話していることをきっかけに知りました。なので必ず帰るまでに沼津に行く!と言っていました。

しばらく授業を繰り返しているとそのうちだんだん英語の頻度が下がってきて、どうにも日本語が出ないと英語に切り替わったりしてましたが、それも次第に単語だけを確認するくらいになって3,4か月すると驚くほど日本語ができるようになり、授業(というかだべりの時間)はすべて日本語になっていきました。

やっぱりタイの食べ物の話で盛り上がったり、どうしても日本で雪を見てから帰りたい、年末年始に滞在した淡路島の話も彼女からの目線が面白かったです。

<教えてもらった学園から自転車で10分のタイ料理レストラン>

コロナウイルスの影響で少し早く帰国することになってしまいましたが、たまたま終業式に参加することができて、留学生たちの日本語でのあいさつを聞くことができました。来たばかりの時はほとんど話せなかったのに、すっかり問題なく日本語スピーチをこなしている姿が見られてとてもうれしかったです。

 

活動の感想

生徒さんに濃密な時間を過ごせてよかったと思ってもらえたとしたらそれはとてもうれしいです。すでに帰国した生徒、まだ茗溪で頑張っている生徒たちがいますが、生徒だけではなく、ボランティアをしている側もこの活動をきっかけとしていろいろと経験することができてやっていてよかったなととても感じています。1:1でやっていると私も濃密な時間を過ごせているなとつくづく感じます。台湾は刺激されて実際に行ったので今度は是非タイに行ってどのように成長しているか見てみたいなと切に思います。

また別の留学生との日本語のやり取りが始まるかもしれないと思うと今からとても楽しみです。