春休みが終わり新学期が始まると、科学部無線工学班(略称:無線班)の活動シーズンの始まりです。今年は新学期早々、今年度最初の競技大会参加申込書を息子が持って帰りました。「第13回下野の国ARDF競技大会」だそうです。
ARDFとは“Amateur Radio Direction Finding”の略称で、森の中(競技地域内)に隠された5台の無線送信機を、決められた時間内にアンテナ付受信機をかついで探し回り、見つけた送信機の数とかかった時間で競う、「無線版オリエンテーリング」と言える競技で、知力と体力を必要とする競技です。4月15日(日)に栃木県矢板市で行われた、全国高等学校ARDF競技大会予選を兼ねたこの大会では、学校対抗では5位、個人男子の部では班員のひとりが4位に入賞しました。今年は、この結果をもって、夏休みに全国高校ARDFに挑みます。
無線班の主な活動は、アマチュア無線の技術向上のために、通常の交信を通じて、無線機の操作や交信技術の方法を学んだり、その技術をコンテストで生かすための電信送受信の練習、そして、コンテストです。これらの活動に参加するためには、アマチュア無線従事者免許が必要なので、班員は、入部したらできるだけ早く免許を取得することを勧められます。我が息子も、中学入学早々、アマチュア無線従事者免許の4級と3級を取得しました。
ゴールデンウイークの始まりは、毎年学校に2泊3日でALL JAコンテストに参加します。今年のALL JAは4月28日(土)~4月29日(祝)です。参加する班員は、コンテスト当日の土曜日、普段の授業の道具に加えて、着替え、洗面道具、寝袋、レインコート、防寒着等と、人によってはノートパソコンも持って登校します。そして午後、中学棟屋上に大きなアンテナを建てることから、コンテストの準備が始まります。
ALL JAコンテストは、JARL(日本アマチュア無線連盟)主催の4大コンテストのひとつで、一定時間内(たいていは夜21時から次の日の21時までの24時間)で、どれだけの数のアマチュア無線局と交信できるかを競う競技です。班員は細かな時間割で担当を分担し、交代で24時間交信を続けます。そして、交信した無線局の数と地域(マルチ)数を掛け合わせたものが得点となります。茗溪学園は2002年以来、電信電話マルチオペジュニア部門で毎年全国1位か2位の成績です。
コンテストの終わる時間はいつも夜遅いので、次の朝片付けをして9時解散、の予定なのですが、たいてい10時を大きく回る頃、ぞろぞろと寝袋と大きなカバンを持った集団が出てきます。他の部活はこれから、という時間に帰宅するのも、無線班独特の行動ですね。
さて、ゴールデンウイークが明けると、班員は面倒な作業に追われることになります。先日のALL JAコンテストで、頑張ってたくさん交信をしたおかげで、交信した局数と同じ枚数のQSLカード(交信証)を書かなければいけないのです。例えば、今回は約1200 局と交信しましたから、約1200枚のQSLカードを書くわけです。このカードは、交信した相手へ送る証明書ですから、とても大切な作業なのです。
これから参加する予定の同様のコンテストでも、いい成績を取れば取るほど、書かなければいけないQSLカードの数は増えていきます。頑張れば頑張るほど地道な作業が増える、というのは不思議な競技です。ご褒美のようで拷問のような、おもしろいカードですね。
その、カード書きにいそしむのと並行して、5月13日(日)、今度は群馬県太田市でARDF競技大会が行われます。参加する生徒は、早朝5時半に茗溪号で学校を出発しますから、家を出るのはもっと早い時間。1日がとても長い競技大会です。朝ご飯が早いのでおなかが空くだろうとおにぎり弁当を持たせたところ、「食べるのを忘れてた」と、まるごと持って帰り、早起きした母はかなり悲しかった、ということもありました。競技が終わるまでは緊張して食欲がないのかもしれません。
こうして春から夏休みに向かって、主に週末の土曜日夜から日曜日午後、あるいは夜にかけて、次々とコンテストが行われます。6月にはオール神奈川コンテスト(ローカルコンテスト)、7月初めには6m&Downコンテスト(4大コンテスト、1998~2006年はマルチオペジュニア種目関東第1位、9連覇)、7月末には全国高校ARDF競技大会(2007年初参加)、8月初めにはフィールドデーコンテスト(4大コンテスト、2001~2006年はマルチオペジュニア種目全国第1位、6連覇)、と続きます。コンテスト会場も、学校だけでなく、筑波山や千代田町等のキャンプ場、利根川河畔など、いろんな場所に出かけます。なかなか楽しそうですが、夜中にものすごい大雨でテントの中までびしょ濡れになって大変だった年もあるようです。
スポーツではないのにお天気にもかなり左右されるようです。テント生活での大雨やアンテナを建てたり回収したりする時に雨が降るのも困りますが、そういうお天気だけでなく、上空の、空気の層によっては、電波をうまく飛ばしてくれなかったり、反対に、スポラディックE層と呼ばれる一時的にできる電離層のおかげで、電波がよく飛んだりするそうです。
夏休み後半には、東京で開催されるハムフェアでの交流会にも参加して、全国から集まる同年代の無線仲間と交流を深めます。現地集合・現地解散ですから、自分で電車の時刻を調べて出かけるいい練習にもなります。
秋には、10月に全市全郡コンテスト(4大コンテスト、2006年はマルチオペジュニア種目全国第2位)、11月初めには県高文連無線技術競技会があります。2006年の無線技術競技会では、方向探知部門2位、欧文受信部門1位(2名)、2位(2名)と、とても素晴らしい成績を残しています。
冬が来ると、基本的にはシーズンが終わり、電子工作(個人的な研究など)やパソコンをいじったり(コンテストなどで利用するための整備など)する季節になります。電子工作では、イルミネーションにも挑戦しているそうです。顧問の願いとしては、「一から自作したものを、自然エネルギー(太陽電池など)で点灯させて欲しい」ということのようですが、現時点では「まずは(既製品を)光らせてみる」という段階のようです。
でもたまに、おもしろい活動が行われることがあります。2006年2月の週末、「国際宇宙ステーション(ISS)から放出された宇宙服衛星 Suitsat-1から発信されているアマチュア無線の電波を受信する」という衛星電波受信の練習がありました。仮眠を取りながら徹夜で、それも中学棟屋上という寒い場所で、主に深夜から早朝にかけて約1時間半に1回の割合で日本周辺に近づく衛星を追尾し、電波受信を試みる、というイベントでした。でも、この宇宙服衛星からの電波受信は、電波がとても弱く、無線班が通常使う機材ではうまく受信できなかったそうです。残念でした。記念QSLカード、見てみたかったですね。
そうして季節が巡り、春休みを挟んで、また、活動シーズンがやってきます。保護者は、毎回のコンテストや競技大会への参加申込書にハンコを捺すことと、現地に子どもを送迎すること、迎えの車の中でコンテストの話を聞くことなどで、班活動に参加しています。