「燃やせ協力魂」をスローガンに、9月8日~9月11日、28回生の筑波キャンプが実施されました。キャンプ場までの最短20kmを自分の荷物を背負って歩き、山の斜面に自分たちでテントを張り、火をおこして食事を作り、2日目からもフィールドワークでまた歩く—「過酷」とも形容される4日間のキャンプ。この筑波キャンプにボランティアとして参加した父母の体験記を5つご紹介します。
「筑波キャンプに参加して」
28回生父母 浅野妃子
この感動をどう書いたら、皆さんに伝わるのだろう。私は、原稿を書きながら考えている。私にとっては初めてのそして最後のキャンプのボランティア。チャンス君の前髪をつかむつもりで参加した。
出発式。元気に歩き出す子どもたちを見送りながら、重い荷物を背負い、20kmの道のりを地図をたよりに無事到着できるのか心配でたまらなかった。そして青年の家で到着を待つ。1時30分頃、最初のグループの到着。拍手で迎える。その後、次々と到着。そして、最終予定時刻を過ぎた4時30分過ぎ、最後のグループの到着。みんな、よく頑張った。その後、テント設営。食事作り。暗い中でも懐中電灯の光をたよりに作ったね。おいしかったよ。
次の日からも、巡検、オリエンテーリングと次々と日程をこなす生徒たち。疲れているはずなのに、いつも元気に行動する姿を見て、たくましさを感じた。見ず知らずの私をゲストとして受け入れ、いつも笑顔で接してくれました。感謝しています。一人では、テントも食事も作れない。不自由な環境だからこそ協力する大切さを学べると思いました。仲間がいるから疲れていても頑張れるのだと思いました。
出発式と同じ場所での解散式。帰ってきた28回生は、確かに進化した姿を見せてくれました。そしてこの経験を生かしてこれからも進化し続けるのだと確信しました。最後にキャンプの期間中、指示するのではなく生徒の自主性にまかせ、常に見守り影でサポートする茗溪の先生方のすばらしさに感動し、改めて茗溪学園の一員になれた事に喜びを感じました。先生方、28回生、そして一緒に参加した父母の皆さん、ありがとうございました。


「目に見えない大切なもの」
28回生父母 太田知子
つくばキャンプ、それは父母の目から見ても、聞きしに勝るハードなキャンプでした。
出発式。柴田教頭先生が「つくばキャンプは、ある意味で高1の臨海訓練よりも運動量が上回る行事です。過酷なものですが、気を引き締めて乗り越えてください。」とおっしゃいました。その瞬間、ピロティ-に集合した28回生の顔が、緊張感でひきしまるのを感じました。その時、彼らが見せた表情は、1年前の里美キャンプ出発前の、小学7年生とよびたくなるような、どこか幼さを残したものとは全く違うものでした。それは、見る者がおもわず姿勢を正したくなるような顔でした。
 さて、父母たちはキャンプ場での整地、トラックからの荷物搬出、本部テント設営、すぐに到着する食材の配布などの仕事があるため、先に車で現地入りします。受け入れ準備ができてきた頃、ぽつぽつと生徒たちが到着。女子の荷物を全て背負って現われた男子生徒。汗だくになり倒れこむ女子生徒。そして、背負った荷物を降ろそうともせずに立ち尽くす生徒たち、、おりしも台風一過の晴天に恵まれ、太陽は容赦なく照りつけ、気温は上昇。茗溪学園から筑波山のふもとまで地図を片手に重い荷物を背負って歩く20kmは、あのアテネオリンピックの女子マラソンさながらの暑さとの戦いでもありました。「20kmを歩く」言葉でいうのは簡単ですが、それを過酷な状況で実際にやり遂げるのは本当に大変な事だったと思います。キャンプ場に到着した彼らに対して、迎える私たち父母からは「よくやったね。がんばったね。」という言葉しかでてきませんでした。
 しかし、生徒たちも、私たち父母も、キャンプ全日程を終えるまで、この「20kmハイク」が「過酷な3泊4日間のほんの入り口にすぎなかった」ということを知りませんでした。日頃、歩いたり運動したりする事のない生徒、体力のない生徒は、この初日で本当に疲れてしまいます。それなのに、寝床の用意も、食事の用意も、全て自分達の手でやらなければなりません。(ここには黙っていてもやってくれるやさしいお母さん、お父さんはいない!父母ボランティアは彼らが食事を作ってくれるのを待つゲストなのです!)また、汗だくの状態なのに、風呂に入ることもできません。それは弱冠中学2年生の、13、14歳の彼らが、これまでの恵まれた毎日の中で多分経験する事のない「つらい、きびしい試練」にさらされることでもあったはずです。そんな中、身体を鍛えてきた生徒、体力、持久力のある生徒は、それらを乗り越えて行くのが鍛えていた分だけ、楽になっていきます。そして、その差が彼らの班内での人間関係のバランスに微妙に影響するのです。ふつうの状況では、見ないで済んだ友達の弱さ、そして自分自身の弱さとも直面します。他の生徒が一生懸命、火をおこし、ごはんを作っている横で、ただ何もしないでいる生徒、座って黙り込んでいる生徒、かたや、自分の分担が終わっても、まだ仕事が終わらない仲間のそばにつき、手を差し出す生徒、冗談を言いながら、面倒な仕事も楽しんでいる生徒、、本当に色々な姿を見せてもらいました。
泣いても笑っても3泊4日間。それをどう乗り越えるか。みんなが体力的にきつい状況で、それをどう楽しめるか。見ているこちらも考えさせられました。そして、どんな仲間となら乗り越えることがたやすくなるのか。相手に対してどんな事ができる仲間にならなければいけないのか。「協力魂」をスローガンにかかげながらも、本当に自分はそれができていただろうか。できていたのなら、また、できていなかったのなら、それはなぜだろう?生徒たちの一人一人が自分を見つめ、考え始めるきっかけに、このキャンプをしてほしいと一人の親として願わずにいられませんでした。
 その一方、中1の里美キャンプの時より、大きく成長し、進化した生徒たちの姿も見せてもらいました。昨年のキャンプで経験した、なたでのまき割り、火おこし、飯盒でのごはん作り、時間内にそれらを全てやり遂げる為の段取りや手順、班員同士の協力。中1のキャンプでは、一部の経験者である生徒を除いて、ほとんどの生徒が初めての経験に右往左往していました。できあがったごはんも、食べられない事はないけれど~という部分が、確かにありました。しかし、今年の彼らは違いました。昼間の理科巡検、オリエンテーリングなどの課題をこなした後にキャンプ場にもどると、こちらではまき割り、こちらでは火おこし、そして、あちらでは食材を刻む生徒、、自分たちが次にやるべきことを把握し、先生方や大人たちの指示を待つ事もなく、今日の食事作りに取り組む姿が見られました。余裕をもって取り組むその姿は、ゲストとして彼らの食事を待つ私たちにとっても本当に頼もしい姿でした。そして、その余裕が、ごはんの味も文句なしにおいしくしていました。「一度経験したことは、確実に自分のものにする」そんな、たくましさ、力強さを生徒たちは見せてくれました。何より見ていてうれしかったのは、友達と声をあげ、笑いあい、本当に「楽しそうに」それらをこなしていく姿でした。
解散式。また、同じピロティ-にもどり、再び、柴田教頭先生がおっしゃいました。「まず体力がないと何もできません。体力の差が感じられました。また、いろいろな人がいました。自分の事で精一杯な人、まわりの事を考えて行動する事ができた人、さらにその上、全体を見て動く事ができた人もいます。みなさんには、全体を見て動けるようになってほしい。」茗溪学園がめざしているものは、これだったんだ、生徒たちに目前の課題を超えるのみでなく、さらに高い所をめざしてほしいという学園の伝統的な教育方針。それが、学園案内のパンフレットの文字に書かれたものだけではないということを、あらためて、父母の一人として感じました。
そして、その後に、28回生学年主任小野満先生の一言。「みなさんのことを本当にほめたいです。みなさんは本当によくやりました。」胸にじんときました。常に高い所をめざしつつ、一方で、ここまで来た生徒たちの「今」「現在」をしっかりと認め、ほめる。先生にほめられた生徒たちの顔が輝くのを感じました。28回生一人一人の心に大きな自信が生まれた瞬間でした。
全てをふりかえって、一人の親として、先生方にも、一緒に参加したご父母の方々にも、そして困難を乗り越え成長する姿を見せてくれた生徒一人一人にも、教えられることがいっぱいのキャンプでした。「鉄は熱いうちにうて」というのは本当なのです。今、この中学生の時期に、身体も心も鍛えておく事が、彼ら一人一人の中に「目に見えない大切なもの」を築きあげていくのだと思います。そして、言葉だけでなく、実際にそれを実現させる為に、一つ一つの行事が組まれ、生徒たちがそれを乗り越えて、本物の「生きる力」を身につけて行けるように、先生方が周到な準備、気配り、目配りをしていらっしゃるということも知りました。そしてまた、ご父母の方々がそれを支えているということも、、。まさに、その現場に立ち会える機会を持てたことに感謝の気持ちでいっぱいです。心からありがとうございました。
「筑波キャンプに参加して」 
28回生父母 大野敦子
このキャンプを最後に父母は子どもの宿泊研修に参加できなくなります。これから先は子ども自身の「自分を作り上げる時間」が始まるのです。親の「子離れ」の時期が来たのだと告げられたようなキャンプでした。
 子どもたちは、自分たちを育てるために先生方や親が一生懸命になっていることを自覚していました。これには驚かされました。茗溪に入学して1年でこれほど成長したのかと思うと、ほんの少しの寂しさと同時に先生方への深い感謝の念を覚えます。
筑波山キャンプは過酷な研修です。「修行」と呼べるほどの課題を与えられています。4日間自分が生活するための荷物を背負い、最短で20km迷えば35kmもの距離を歩いて筑波山の斜面にたどり着いたと思うやいなや、夜寝るためのテントを張らなければなりません。さらに疲れた体で、火を熾して夕飯を作らなければならないのです。巡検やオリエンテーリングの日のお弁当は朝、自分たちで火を熾して作ってから活動です。洗濯と風呂焚きはありませんが、自分たちで4日間生きていくための「生活」をしなければならないのです。こんな過酷なキャンプを学校は25年も続けています。先生方への負担も大きく、父母の参加協力を呼びかけてまで。なぜでしょう。帰ってきた子どもを見ればすぐに理由がわかります。
 28回生は「リーダー」の素質を持った子どもが大勢います。いい加減に指をさせば、誰でもがきっとできるでしょう。ですから、自分から思いっきり手を上げることにはとても勇気がいると思います。手を上げても選ばれる基準はとても高いものだと思うからです。しかし、選ばれてしまえば必ず成功します。周りで支えてくれるのは「協力」しようと思っている人ばかりだからです。キャンプファイアーの時に強く感じました。辛抱強く、やさしい人がたくさんいる学年なのだと思いました。皆さんは「自分が楽しい」と「みんなと楽しむ」には方法が異なるのだとわかったと思います。まだ、自分を発揮できないと思っている人がたくさんいると思います。が、くさってしまわないで、いつかチャンスをつかんでください。あなたたちはもっと、もっと大きく育つことのできる人たちだからです。自分を律することのできる人たちです。あなたたちを心から応援しています。
最後に、台風を二つも吹き飛ばしてしまうようなあきれるほど大きなパワーを持った学年の先生方に心から感謝します。保護者のみなさん、茗溪に入学させて本当に良かったと納得の4日間を過ごしてきました。先生方お一人お一人を、子どもたちの一人一人を大好きになって帰ってきた4日間でした。こんな幸せな時を過ごさせていただいて、ありがとうございました。
「燃やせ協力魂」
28回生父母 畠山純子
昨年の美里キャンプには父親がボランティアとして参加しました。その参加を決めた時、娘は涙ぐんで抵抗しました。「お父さんは他の子でも大声で叱るから友達を無くしてしまう。」という心配からだったようです。しかし、父親は、反抗期を迎えるこの時期に良いチャンスだという考えから、「親が一生懸命働いて希望する学校に行かせてやっているのだから文句は言わせない。キャンプには参加させてもらうよ。」と強引にキャンプ参加を決めたのです。父親も娘もスッキリしない気持ちで出発した美里キャンプでした。しかし、里美キャンプから帰った後の2人は、一緒にジョギングし、その帰りに学校のことを話しながら手をつないで帰って来たりするようになったのです。
里美キャンプの後、娘も変わりましたが、それ以上に大きく変わったのは父親の方でした。茗溪学園の先生方の献身的な指導と情熱に心を打たれ、「自分ももっと子供のために頑張れるのではないか」と考えるようになり、子育てに力を注いでくれるようになったのです。
今回は、「お父さんを変身させた茗溪学園のキャンプ」がどういうものかを自分の目で確かめたいという気持ちから参加しました。
 今年の筑波山キャンプのスローガンは「燃やせ協力魂」でした。この協力・助け合いの心を育てることが、今の時代とても大事なことだと思います。「一人暮らしのお年寄りが、亡くなってから何ヶ月も過ぎて発見された。」「少年の自殺が増えている。」等のニュースを耳にする度に「もっと周囲の協力があれば何とかなる」と考えてしまいます。
茗溪学園の教育には、この協力魂を燃えさせてくれる場が沢山用意されています。この筑波山キャンプもその一つです。テレビもない風呂にも入れないという3泊4日の不便なキャンプ生活は、仲間との協力魂なしには成り立たないのです。
私は、今回のボランティアでオリエンテーリングの賞品作りを担当しました。どんな物を作ったら喜んでもらえるか考えた末、スローガンである「燃やせ協力魂」の文字を板に彫って贈ることにしました。他のボランティアのお父さんお母さん達が、安全に作業できるように机に止め板を取り付けてくれたり、飾りにするドングリの炭を作る時にも知恵を貸してくれたりと、ボランティア父母全員の協力で「燃やせ協力魂」が完成したのです。これは、ボランティアのお父さん達が暑い中、汗だくになりながら麦茶を沸かしてくれた火で燻した後に磨いてあります。子供達の教室に飾って、時々、キャンプのことを思い出してくれたら嬉しいです。
そして、子供達の「協力魂」が、麦茶を沸かした炎のように優しく永く燃え続けてくれることを願うと共に、この協力魂を燃やせる茗溪生達は、将来、必ず、社会に大きな貢献のできる人間になると確信しています。
「筑波キャンプによせて」
28回生父母 小川精一郎
茗溪のフィールドワークは砂漠でも無人島でもサバイバルできる力をつけてくれるという人がいる。そんな所に放り出されることなどあまりないと思うが、それでも過酷な状況で生きていかなくてはいけない局面は今後の人生で少なからずあるだろう。
あの決して広いとは言えないテントの中で、誰かの足が顔の上に乗ってこようが、正体不明の虫が侵入してこようが眠ることができたなら、たいがいのところでは熟睡できるだろう。どこでも眠れるというのは案外貴重な能力だ。
私はいわゆる発展途上国で生活したことが何回かあるが、不便な生活を強いられることをぼやいてばかりいる人もいれば、そのことを逆に楽しんでしまう人もいた。里美や筑波のキャンプをやりとげた茗溪生は世界中どこへ行っても、そこでの生活を享受できることだろう。
茗溪生諸君、もっともっとたくましくなって、世界を駆け巡ろう。